私は、ワークショップに代表される「協働的な学び」の学びのデザインと学びの現場で何が起こっているのかを明らかにする研究者です。
また、「協働的な学び」ではどのようなデザインが可能かを試みている実践者でもあります。そして、これらの研究や実践が「現場」へ還元されていくことを心から希求しています。
協働的な学びをデザインするときに、Clement や三宅などが着目している「協調による概念変化モデル」などの研究からも協調的な学習体験とその内省を重視する構成主義的カリキュラムで概念の転移や変化が生成されやすいことが示されています。それらを基盤の一つに置きながら、デザイン研究・デザイン実験という領域で、協働的な学びのデザインの実践改善と理論構築をデザイン的に展開することをテーマにしています。
協働的に学ぶことのデザインの根源には「おもしろくなければつまらない」(佐伯胖氏)ものがあるととらえ、そのおもしろさは学ぶ対象を多元的に見立て、味わうことによって得られていくと考えています。
協働的な学びの現場では、多彩なエピソードが重層的に生成されていきます。それを前提に学びをデザインするためには、同一空間上に複数の学びの文脈があるとする「視座のデザイン」から、「無意識を意識化」する「気づきのデザイン」による「まなびほぐし」の生成などの実践的な学びのデザインが展開していきます。そして、これらの展開を即興的、身体的に実施していくときにアート的なアプローチとの親和性がみえてきます。
これまで述べてきた協働的な学びやデザイン研究・開発研究の研究対象としては、現在、学校教育でコミュニケーション教育として展開されている「芸術表現体験」というアート系ワークショップを取り入れた授業を取り上げています。また、アート系ワークショップの可能性を模索するために実験的なワークショップを多分野の実践者や研究者とゆるやかに連携しています。
これらの協働的な学習デザインやArtによる学びなどの思想的源流を大正後期から昭和初期の自学教育と、1920〜30年代の世界的な新教育からの影響と、その交差する事象としての師範学校で展開されていた協働的な学習の取り組むとその背景から国民学校に埋め込まれた協働と、1947年から教師教育へのワークショップの導入とその破綻、また、1960年代以降のグループ学習とリーダー作りとしての民主主義教育、生活科、総合的学習の時間、キャリア教育でのコミュニケーション能力への着目と今後展開される「資質・能力」までの協働の意味の変遷に関する教育思想史的な沿革を研究室独自の研究として取り組んでいく。
関連する文献
苅宿俊文・佐伯胖・高木光太郎(編)「ワークショップと学び」全3巻 東京大学出版会,2012年