コミュニティ,組織,ネットワークにおける学習・発達について研究しています。
特に,次の三つの点に関心があります。
その① 学んだのに別の場面に生かせない?:「学習転移」概念を批判的に検討
その② 既存の集団の枠を越えて,異質な人々がつながり対話する創造活動の実践
その③ 流動的に異質な人々がつながる「ゆるやかなネットワーク」
① 学んだのに別の場面に生かせない?:「学習転移」概念を批判的に検討
「ぜひ何かここでの学びを持ち帰ってください」と,セミナー等で講師からしばしば聞かれる決まり文句は,知識の(学習の)転移を想定しています。ところが,しばしば私たちは,「セミナーで学んだことが実際にはほとんど活用されていない」とか,「学校でやったことなんて実社会で役に立たない」等の言葉を耳にします。
こうした現象がいかに生じるのか調査し,それをどう乗り越えていくか研究しています。通常,教育学や教育心理学の分野では,広い意味での「教授方法の改善」を図る教授主義的アプローチがとられてきました。
しかし,それでは,限界を抱えると考え,より組織的,コンテクスト中心的なアプローチに依拠して,実践的に研究に取り組んでいます。主に看護教育のフィールドを対象にしていますが,様々な場に共通点があるものと考えています。
② 既存の集団の枠を越えて,異質な人々がつながり対話する創造活動の実践
日ごろ属している組織や集団の枠を超えて,人々が集まり,閉塞してしまった組織文化を変えたり,新しい知識やジャンルや活動を生み出していく「越境的な対話と学び」について,実践的に研究をしています。
それまで交流の薄かった,部署間や集団間が交わり知識や実践を創造する場を協働でデザインしたり,そうした活動を行っている現場を調査したりしています。
③ 流動的に異質な人々がつながる「ゆるやかなネットワーク」
近年,急速に発展している人々の結びつきの形態があります。中心があまりはっきりせず分散的で,ゆるやかに人々が集り,離れ,また集まる,ネットワーク活動です。
例えば,反原発デモ等の社会運動,草の根的に行われている社会活動,祝祭的なフラッシュモブがあげられます。こうした事柄について,境界,情動,矛盾,歴史性,プレイ(遊演),マルチチュードなどのキーワードを検討しながら,研究を進めています。
以上は,いずれも,人の心を集合体や関係性から捉える,活動理論や状況(的学習)論と呼ばれるアプローチを軸にすすめています。
活動理論の発展に強い影響を与えた,マルクス,アルチュセール,ヴィゴツキーといった理論や哲学にも関心があります。
関連する文献
香川秀太・青山征彦(編)「越境する対話と学び:異質な人・組織・コミュニティをつなぐ」新曜社,2015年