日本心理学会の公開シンポジウムで、以下のようなものが行われる.
負の連鎖を断ち切ることはできるか――児童虐待からの再生――
行事案内 | 日本心理学会
公益社団法人日本心理学会の公式ホームページ
・東京会場:6月24日(日) 14:00―17:00
・京都会場:11月18日(日) 14:00―17:00
虐待とそれによる影響,そしてその克服、基本はそういう話であると思う。また企画者のお二人,仁平先生,内田先生は心理学、教育界に大きな影響を与える立派な仕事をしてきた方たちだ.
しかしこのタイトルは強い違和感を覚える.特に「連鎖」という言葉だ.これはまるで虐待に連鎖がある,因果関係があるということを人々に容易に推論させる.こうした分野の研究はよく知らないが,本当にそういう関係があるのだろうか.巨大なサンプルをとって,χ2乗検定などを行えば有意差は出るのだろう.でもそれが因果であることを本当に立証するような研究があるのだろうか.こういう科学レベルの疑問がすぐに沸き上がる.
科学の世界だけならば学会で議論していけばいいわけだが,こういうタイトルは社会的インパクトも大きい.虐待を受けた経験のある人たちが不当に差別される,あるいは自己嫌悪的感情を喚起させる、というような事態は生じないだろうか.
またこのシンポジウムでは脳科学も登場する.虐待は脳に深刻なダメージを与えるとのことだ.当然そうだと思う.しかし,これが「神経神話」のようなものと結びつくと,回復不可能なダメージというものを連想させる.シンポジウムでは、回復不可能ではないということを主張したいのだろうが,上記ページにたくさん出てくる「回復する場合もある」などの表現は、企画者たちの意図とは全く別のメッセージを伝えるのではないだろうか.