標記の本を読んだ.なかなか魅力的だが,ずいぶんとprovocativeな本である. 一般にほとんどの教科書には現世人類の祖先は6万年くらい前にアフリカを出発し,世界中に広がった.そして4万年くらい前にはヨーロッパに到達し,ネアンデルタール人を駆逐し,人間の時代が始まったとされている.それ以降は人間は進化を停止し,あるいはどこの地域の人も同様の進化を経て,今に至るというのが基本的な考え方だと思う.
この本は題名からしてそうなのだが,そういうのは嘘で進化は続いているし,それは文明の発達に伴って加速しているという立場を取る.そしてネアンデルタール人との混血(!),農耕の発達による(自然?)淘汰,白人による新大陸の支配,中世におけるユダヤ人の進化(?)などというきわめて危ない(?)テーマをデータをもとに語っている. 具体的には,
- 現世人類のある種の能力はネアンデルタール人の遺伝子に基づいている.
- 農耕の発達による社会体制の変化は,心性にかかわる特定の遺伝子を選択した.たとえば,服従,蓄財,倹約,節度,利己主義等の特性に関連する遺伝子の保有者は,そうでない人よりも生存率,生殖率が高い.
- 白人による新大陸の支配は,アメリカ原住民の病気に対する耐性、免疫の欠如にあった.
- ドイツ系ユダヤ人に知的に優れた人が多いのは,中世における彼らの職業や遺伝的隔離(異教徒との結婚の禁止)に基づいている,
などなどである.そしてヒト集団間の生物学的な差異は表面上のものではなく,文明による淘汰,遺伝に基づくものなのだと主張する. 本当かなぁ. こうした立場は,スティーブン・グールドやジャレッド・ダイアモンドなどの説と鋭く対立する.とは言ってもダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」は読んだことがなかったので読んでみようと思う.