naming insightとプロジェクション

共創言語セミナーという、新学術領域(代表:岡ノ谷一夫)で毎月のように、オンライン講演会をやっている。先日は、もう40年来の知り合いである今井むつみさんの講演が行われた。当日は参加を忘れてしまったのだが、その後にビデオ視聴ができるので、それを先日見た。

とても面白かった。彼女は主に英語でインパクトのある論文を量産していることで有名だが、個別の論文だけでは伝わらないものがよくわかったということだ。それは何かというと言語の獲得にはnaming insightが最も本質的であること、これが身体を基盤としていること、そしてそれは対称性推論に現れるようなアブダクションを用いたものであること、これらがとても良く工夫された実験(発達、脳計測、比較文化認知等)ではっきりと示されており感心した。

特に私にとって大事だと感じたのは、naming insightだ。これは発話、知覚した音声が、そのものではなく、別のものを指し示しているという直感を指す。音と対象の間のcontingencyは動物でも検知可能である。しかし言語とその意味というのは、そうしたcontingencyに還元することはできないと彼女は主張する。音の背後にあるものをアブダクション(彼女はこれをabductive leapと呼ぶ)によって探し出す、作り出す心の働きがなければ、言語を理解したとは言わないのだ。彼女は様々な場所でヘレン・ケラーの話(例のwaterというやつ)を持ち出し、この重要性をもう10年(?)も前から叫んできた。何度も聞いたり、読んだりしていたのだが、私の学術的な感度が低いせいか、また言語にあまり興味がないせいか、おそらくその両方でnaming insightの重要性に気づくことができなかった。

この問題は、プロジェクション科学にとっても、とてもとても本質的な問題だと思う。特に、これはポランニーの暗黙知の議論の中の、近接項(proximal term)と遠隔項(distal term)というもの言語の中で展開したものなのだと解釈できる。要するに、受け取ったものの背後にあるもの(原因系、意図等々)を推論する心の働きということとなる。ただプロジェクションの場合は、受け取ったものの背後にあることを「推論」するだけでなく、それを「世界に定位させる」ということを含んでいる。この点がプロジェクションがアブダクションには還元されない点だ。

それからこの新学術の根本問題である、言語進化の話については、今井さんはabductive leapが起きているのだと主張する。そしてこのleapにはほぼ人間に固有と言われている、対称性推論が関与しているという。彼女は霊長研のチンパンジーたちが大変に賢いにもかかわらず、対称性推論をほぼ行うことができないことを証拠として、なぜ言語がヒト固有になるのかを説明する。

ただ彼女は注意深い観察で対称性推論が可能な個体(クロエ)のことも忘れずに述べていました。こういうことで大事なのは、特に前適応ということだと思う。何かが、たとえばnaming insight、突然現れるわけではなく、これまでにあったものの新たな組み合わせとして生み出されるのだと思う。動物もアブダクションが全くできないわけではなく、それがある文脈で(おそらく身体化された経験、本能が強く関係する文脈)、他のリソース(認知的、物質的)と組み合わされることがポイントなのだろう。

前にも書いたが私自身があまり言語に興味を持っていないことから、この問題をスキップしていたけど、プロジェクションにとって大変大事な意味を含んだ研究なのだということがわかった。

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