今朝の朝日新聞に「拝啓ダーウィン様」とかいう記事があった.そこでは人間の言語を司る遺伝子(FOXP2)とほぼ同等のものがチンパンジーはおろか,マウスにもあったという話が出ていた.それでマウスに言語を話させる実験をするとかいう,研究者の談話が載っていた.
そんな話があったのかと驚いたので,以前特定言語障害というので有名になったイギリスの家族の話を思い出した.確かこの家系の人はこの遺伝子に異常を持つ割合が高く,そうした人たちはかなりの確率で言語障害を起こすようになるというのである.それで調べてみたら,まさにこの家系についてのお話に基づいて,記事に掲載された研究者がお話ししていることがわかった.
しかしこの話というのはその後の研究では,それほど単純ではないことがわかっているはずだ.たしか,この家系で障害を持つ人は,一般的な知能遅滞とか,他の確か身体的障害も伴っているということがわかったはずだ.こうしたことから,この遺伝子が言語の遺伝子というほど単純ではないというのは,ずいぶん当たり前の話になっていたのではないだろうか.それとも何か別の大事な発見がその後になされたと言うことだろうか.
それにしてもこの記事に見られる推論には,ずいぶんと大きな問題がある.ふつう人間において言語の機能を司る遺伝子がマウスにもあったという話を聞けば,その遺伝子は言語には関係ない,あるいはその遺伝子だけで言語が作り出されるわけではない,という推論をするのではないだろうか.この事実から,マウスも言語を話す潜在能力があるというのは,むろん可能性としては存在するが,あまり妥当性の高いものとは言えないだろう.
また言語という言葉で何を意味するのかが全く問題にされていないというのも気になる.言語は古典的には,音韻,文法,意味,状況,近年は身体,運動も関連するとされている.これら多くの能力の総合的な構築物として言語を考えるというのが,ふつうではないだろうか.文法だけを特権化して,これを言語というのはなんとも不思議な感覚だ.