コロナ禍で都内のほとんどの大学は対面授業をやめている。そういうことで各教員はオンラインの授業をやるように言われている。一応、オレの大学では、リアルタイム授業、オンディマンド授業、自己学習などの3タイプに区別されていたりする。
それでこの間、講義系の科目をやったわけだ。、駒場の学生たちを相手にしてものもの。Zoomを使ったもの、青山での大学院のゼミだけど、その感想を3つほど挙げたい。
一つは相当な疲労感があるということだ。なによりも虚空に向かって話すというのが辛い。オレは講義は別に嫌いではないし、認知科学系の講義はかなりしっかり資料を作っているので、やるのが逆に楽しい。それは準備の問題だけではない。学生の反応を予測してネタを仕込んだり、演技をしたりして、相手が反応してくれることに支えられている。だが、みんなビデオは切るし、音声も切るしで、何にもない。自宅の勉強部屋に向かって話すことになる。これは思いの外辛い。30分くらい話すとめげてくる。これは今まで感じなかったことだ。
さてここから裏返しになる気づきは、普段何も考えずにやっている講義は学生、そして彼らの反応に支えられているということだ。寝ている学生もいたり、(ほとんどいないが)隣と時たま話す学生がいたり、スマホをいじる学生がいたりで、そういうことで嫌になることもあった。でもそれらの稀な例は大した話ではなく、オレが気持ちよく講義できたのは実は受講生たちの支えによっていた、ということに気づいた。
第二に、今のVideo conferencing sysytemは大抵chatの機能がついている。オレ自身はchatというのは歳のせいかほとんどしたことがない。そういう次第で、むろんなんの興味なかった。ニコ動とか、TVのニュース番組などでも、こういうのが出てくると馬鹿らしいなどと思っていた。講義をやる前はよほどその機能をオフにしようかと思ったくらいだ。
しかしオフにするやり方を知らなかったので(恥)、そのまま講義をした。ところが意外な発見をした。まず最初に助かったのは、接続確認だ。オレが最も恐れたのは、「全く聞こえません」、「音が拾えません」などのことが講義の中で起こることだった。ところがこういうのを確認するのに、chatはとても有効だった。むろん音声でやるのもあるのだが、chatはもっと簡単だ。実際、開始20分以上までに会議に入った時、すでに待機室にいた学生を承認し、「聞こえる」、「見える」と尋ねて、「はい聞こえます」、「見えます」という返事をもらった時は嬉しかった。安心して講義を進めることができた。これも意外だった。また、(その時気づけばよかったのだが)、Zoomの使い方についてオレよりよくわかっている学生たちが何人もいて困っているときに、フォローを出してくれていたのだ。次の段落でも書くがこれは本当に嬉しい。
三番目もchatがらみだ。講義中、オレがど忘れしたり、やや古いデータで語ったりすると、その場でそれをよく知っている学生たちがフォローしてくれる。講義中は必死で全くフォローできなかったのだが(かつchat画面のフォントが小さすぎてよく見えない、老眼のせいだ、泣)、講義終了後に読んだらまことに示唆に富む意見とか、役立つ意見を寄せてくれていた。これは正直すごく嬉しかった。
昔から講義は教員と受講者の共同作業で成り立つと考えてきたのだが、そういう実感はなかった(だからと言って、文科省がらみのアクティブうんたらは興味ないけど、一切)。まさにそういうことが今回の講義で生まれていた。これは相当にびっくりしたし、なによりも励ましになった。そういうことで、今回はほぼ全部のchatにお礼とか、返信とかをした(LMSの掲示板を通じて)。
ということで、始める前に考えていたようなネガティブな部分だけではないのだということに気づいた。
ただ意外なネガティブ面もあるようにも思った。それはゼミなどの小規模のミーティングに関してだ。よくお互いを知っている仲間でWebMTを行うのは以前にもなんどもやったことがあるので、あまり気にしていなかった。
ただ今日、大学院のゼミでこれを行った時に、ちょっとというか、結構な違和感を感じた。それは、自分のプライベートスペースに他者が入り込んでくるという感覚だ。自分の家の中のスペースに何人もの人が入り込んできているような感覚を覚えた。家では居間などの共通の部分から、「さあ仕事やるぞ」とか言って、そのスペースに入るのだが、そこで会議をやるとなんとも落ち着かない、なんとも居心地の悪い。むろん、今日の参加者が「先生のうちこんななんですねぇ」とか、そういうことを言ったからというわけではない(彼らの名誉のために断言しておく)。これは今日のはWebExを使ったもので、背景も全部丸見えということがあったからかもしれない(多分違うと思う)。
そういうことでいろいろと今まで考えたことのない体験を金曜日、土曜日でした。備忘録として書いておく。ただ、それにしてもオンライン講義で500名弱の参加者の成績評価はどうするの(教室での試験は禁止という中で)。