ダイナミカル宣言VIII: 進化心理学

進化心理学、あるいは進化的アプローチは、長い間きちんとした形でダイナミカル宣言と結びつけなければならないと思っていた。そもそも、進化は決定的にダイナミカルで、おれ自身の発想も、ここに負うところが多い。

でも、何か違和感を感じ続けていたのも事実で、そこらへんを頑張ってまとめてみようかと思う。

  1. 進化は目的性を持たないこと(生成性、局所性と関係する)、
  2. 環境が決定的に重要であること(開放性と関係する)、
  3. 様々な変異をそもそも前提としていること(冗長性と若干関係する)、

などのことから、ダイナミカル宣言で述べた認知の4つの性質と類同である。そもそもダイナミカル宣言の主要な基盤の1つに進化が存在している。

しかし私がよく耳にする進化的アプローチというのは、どうもこういうのと違う、という気もしていた。まあ、誤解なのかも知れないけど、領域固有性や、モジュールのような、多様性に欠け、硬直したものが進化的に作り上げられてきたというような話が多いきがしてならない(といってもCosmidesらの裏切り者検知モジュールだけかも)。まあでも1つの機能をとんがらせるようなものとして、進化を考えているような節がある。

一方、認知がダイナミカルであるということは、冗長であり、敏感であり、どん欲である、多重の相互作用からなる、非常にフレキシブルなシステムが我々の認知を支えていることを意味している。

だから基本精神においては2つは同じなのだが、その現れが異なるということになるのかもしれない。

平石さん(東大情報学環)の研究を先週の土曜日に聞いた。彼は日本の進化心理学の牽引車である長谷川先生の研究室の出身で、Cosmides同様4枚カード問題の進化心理学的研究を行ってきた俊英(表現が古い…)。山のような実験を行っていることにもびっくりしたが、なによりも印象的だったのは4枚カード問題での、人間の柔軟性、敏感性、状況依存性であった。たとえば、Cosmidesらの裏切り者検知はある種の問題文脈ではロバストに働くが、平石さんが扱ってきた内集団、外集団文脈では外集団排除傾向がきわめて強く出る。また、この傾向は「自分」が関与した文脈ではさらに強く出てくる。さらには、直前にといた問題の影響まで受けるという。

これらが意味するのはいわゆる条件文推論には、多種多様な認知的リソース(裏切り者検知、外集団排除、自己の問題、先行経験、さらには許可スキーマ、個別経験、Oaksford & Chaterらの情報獲得などなど)が関与しうると言うことだと思う。こうしたリソースが冗長なネットワークを形成しており、問題の持つ特徴に対して、敏感に反応しながら、人間の認知を支えているのではないか。場面に合わせて1つの機能をとんがらせることではなく、こういう柔軟な仕組みをつくること自体が進化なんじゃないか。少なくとも高次認知はそんなことになっているような気がする。

ちなみに、金子・児玉の「逆システム学」にしたがえば、こうした問題に適応的に対処するために、これらのリソースを調整するような仕組みが発達するのかも知れない(この本もとてもよい本なのでいつか紹介しよう)。

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