The New Unconscious (0)

思考を前頭葉から解放する、という言葉はここのページで使った記憶がある.しかし、思考はそうしたものではないということが徐々に明らかになってきている.思考は

  • 感情
  • 身体
  • 環境

の生み出す情報に強く影響を受けながら営まれていることがいろいろな研究から明らかになってきた.つまりきわめてダイナミカルということだ.

特に私が注目してきたのは、思考と無意識との相互作用だ.思考は理性の現れであり,プランやモニタリングなどの意識の作用によって注意深く制御されたプロセスであるというのが常識だと思う.しかし思考以外の大半の認知機能は、無意識的、潜在的な処理の産物である.そうしたことからすれば,思考だけが無意識とは無関連に営まれているとは到底考えられないわけだ.

こうした次第でだいぶ前から、洞察のプロセスが潜在的学習のプロセスであると主張してきた.簡単に言うと以下のようになる.人は失敗を通して徐々に学習し洞察に近づく.しかしこれはほとんど無意識的なプロセスであり,意識はその学習のプロセスにはほとんどアクセスできないどころか、潜在学習の成果とは全く正反対の評価を行ったりする.そして潜在学習が進みいよいよもう洞察目前となった頃に、このとても鈍い意識的な、顕在プロセスが「わかった」などと叫ぶ.

こうした考え方を洞察においてしたのは自分たちが初めてだと思うが,意識と無意識の関係について同様の主張をしている人たちは他にもたくさんいる.たとえば慶応の前野さんは「受動意識仮説」を3冊の著作を通じて(たとえばここ)提案し,この問題に切り込んでいる.また下條信輔さんは「サブリミナルマインド」などを通して、認知と無意識との関わりについて包括的な議論を展開している.

こうしたものを読んでいく中で,実験社会心理学の分野では古くから意識ー無意識の問題を扱ってきたこと,そしてここ20年くらいはBarghやオランダのグループが高次認知活動における無意識の役割についての研究を展開してきていることを知った.この一部は「無意識と社会心理学」という訳書にもなっている.

こうしたことから,この分野の研究をもう少し体系的に知りたいという願望が強くなってきた.今年,非常勤をしている大学院で十数名ほどの参加者があったということもあり,

R. R. Hassin,,  J. S. Uleman, & J. A. Bargh (Eds.) (2005) The New Unconscious (Oxford)

を読むことにした.この本は、

  1. Fundamental question
  2. Basic mechanism
  3. Intention and theory of mind
  4. Perceiving and engaging others
  5. Self-regulation

の4つのパート、全19章からなる本である.読み始めてみたがなかなか楽しい.機会があるごとにメモ代わりにここに気づいたことを残しておこうと思う.

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