「類似から見た心」刊行!!

大西さんと私で編集した「認知科学の探求シリーズ:類似から見た心」(共立出版)が昨年(2001)暮れに出版されました。この本は、「類似」という観点から人間の認知を捉え直すという、1990年以降かなり活発になってきたアプローチの延長線上にあります。ただし、本書の論文はいずれも類似をgiven とせず、それを動的に作り出すメカニズムに触れているという点で、ダイナミズムの路線上にもあります。またこの本は、知る人ぞ知るという豪華メンバーによる論文が多数収録されており、類似判断、類推は元より、カテゴリー、認知発達、創発認知などの研究分野に大きな影響を与えるものと確信しています。

以下、各章の内容と著者紹介をくだけた形で行ないます。
類似のダイナミクス(Spencer-Smith Goldstone)第二著者のGoldstoneは、1990年初頭から類似判断の分野で画期的な研究を行なってきた、この分野のリーダーのような人です。この人の研究で類似研究は新しい段階に入ったといってもいいくらい、素晴らしい仕事をしてきた人です。固定した類似の概念を打ち砕き、ダイナミックに類似が創発される現象を捉えた研究とそのモデルがきわめて簡潔、わかりやすく書かれています。実験的、モデル的ににしっかりしたものを中心に紹介されています。さまざまな認知活動に見られる刺激ー処理適合性(Wisniewski & Bassok)この論文は今井さん(慶応)の紹介で、書き下ろしで書いてもらったものです。類似が単一の処理機構に支えられる認知ではなく、処理すべき情報との関連で、さまざまな認知リソースを利用するものであることを、実験的にはっきりと示した好論文です(originalはCognitive Psychology(1999))。 WisniewskiもBassokも、類似、概念、比喩、転移、学習などの分野で、素晴らしい仕事をしてきた人たちです。この人たちは、独特のいい研究センスを持った人で、主流のアプローチの抱える根源的な問題を指摘し、それをしっかりと実験的に押え込み、新たな発展をその分野に持ち込む仕事をいくつもしてきました。Wisniewskiとは個人的に知合いです。アメリカの研究者というと、パーティではワイン数杯、タバコは見向きもせず、コーヒーはデカフェ(カフェイン抜き)というのが多いのですが、彼は酒もタバコもやるという、アメリカの研究者にはきわめて稀な、すばらしい性格の人です。類似性における構造整列とそのカテゴリー構造への影響(Markman)はい、この人も知る人ぞ知るという人です。こういう言い方はあまり適当ではないかも知れませんが、構造写像理論のDedre Gentnerの一番弟子で、現在Cognitive Science Societyの事務局長。特に彼は構造を生成するという側面から、構造写像理論を拡張し、構造整列(structural alignment)という概念を提案した人です。この考え方がわかりやすく解説され、それと概念との関係を探求したのが、この論文です。最近は、Cognitive dynamicsという本の編集をするとともに、Dietrichと伝統、正統的アプローチからdynamical approachへの批判を行っています。帰納推論と類似(大西 & 岩男)編者である大西君と、現在日本でもっとも精力的に帰納推論を研究している岩男君との共著。前半は岩男君がOshersonらのsimilarity coverageモデルを解説し、自らの研究を含めたその後の展開を述べ、後半は大西君が構造整列や、類推の観点から、自らの帰納推論を捉え直した研究を述べています。帰納推論をこれからやる人は、これを読めばもう大丈夫。アナロジーと想起(福田)ことわざを用いて、ベースドメイン表象の抽象度の性質を解明した研究で知られる、福田君の論文。彼自身の研究に加えて、近年Kevin Dunbarらが精力的に行なっている人の自発的な類推の能力についてのレビューが載せられています。これらの研究は、私の「準抽象化理論」ときわめて密接な関係にあります。概念発達と言語発達における類似性の役割(今井)語の意味の獲得における制約論的アプローチで、内外から高い評価を受けている慶応の今井さんの論文。類似という観点から、語意獲得の理論を総括し、自らの研究を紹介し、従来の理論の問題点をえぐる好論文。特徴の創造と表象の変化について(Indurkhya)「Metaphor and Cognition」(1992)によって独自の類推、比喩、創造の理論を打ち立てたインドゥルキャ(農工大)さんの論文。Metaphor and Cognitionは大変に素晴らしい本ですが、難しいのと、長いのと、独特な概念体系のため、なかなか日本では広まっていません。この論文では、彼の考え (similarity creation)とその後の発展がコンパクトにまとめられています。Metacatプロジェクト(Marshall & Hofstadter)「ゲーデル、エッシャー、バッハ」の著者であるホフスタッダーと彼の研究室の院生の論文。表象を動的に作り出す、きわめて斬新なアナロジーのモデル Copycatをさらに拡張し、学習や、自己参照機能を含めたmetacatの解説論文。このように、もの凄い論文が山盛りの本です。ぜひ、お読み下さい。ここらへんが常識になってくると、日本の認知科学や心理学もだいぶ変わってくると思うんだけどなぁ。

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